わたしの好きな男の子のタイプはわたしのことをわかってくれる人。
好きな人がタイプだなんて邪道なことをいう人がたくさんいるけれど、初恋を除けば一定の基準や歴代付き合った人に共通点がひとつもないなんてありえない。だって人間だから。
わたしは中学校が私立の女子校だったから、男の子に夢をみて過ごした。
星月学園に入学してその夢は打ち砕かれ、わたしの夢は打ち砕かれたかにみえた。月子先輩が卒業して、入れ替わりにわたしが入学した年、その年の秋、わたしの世界は変わったの。わたしは見つけてしまった。困ったように笑う、あの人を。
生まれてはじめて、人を守りたいと思った。
「1年前から好きでした」
「ふーん」
「…ふーんて、なんですか、」
「年頃の女の子は年上に抱いた憧れの感情を恋心と勘違いする傾向があるからね。しかも君は女子校出身者だから、君が今僕に抱いている感情は女子校病だよ。恋心じゃない」
「そんなことないです!」
「そう?誠意が感じられないからてっきり女子校病かと思ったよ」
誠意?女子校病?
まあ、惚れたもの負けとはいえ、きっぱり物事を言う、むしろ嫌みなどを加えながらしゃべる奴だ。人様の告白を病気で片付けたよこの人。
「出直してきます!」
先生とは反対方向に走り出したはいいけれど、どこへ行くかなんて決まっていない。
どうしても伝えたくて。
どうしても、わたしのことを意識して欲しくて。月子先輩よりわたしのことを覚えていて欲しい。あと1年ちょっとしか一緒にいれない。どうせなら恋が実って幸せな1年にしたい。
わたしにだって考えくらいある。
でも形に残ってしまうから、先生であるあの人には迷惑かなあと思ったりしたんだ。
屋上庭園で星をみる先生をみたとき、わたしはまだ先生に恋をしていなかったのに失恋した気分になった。
かなしそうに笑うから。
普段は意地悪く笑っているのにそんな顔をして笑うから、わたしは先生を意識せずにはいられなかった。
そういえば、先生のiPhoneケースは印象派の画家の絵だった。
印象派のフェルメールは、手紙に関する絵を6枚も描いたらしい。あれ、6枚だっけ5枚だっけ…まあ枚数なんていいのよ。とりあえず絵の枚数に対して、手紙に関する絵が多いんだって。
フェルメールが描いた人たちもきっと、こんな気持ちだったのかな。
あなたにあげたい言葉、わたしはたくさん持っているよ。
マシンガンみたいに愛を降らせたら、なんて、たくさん愛を叫べたら、なんて、わたしは生徒であなたは先生だから、そんなことできない。今はできないから、わたしの精一杯を受け取って下さい。
5時間かけた内容を破られたら破られたでいいかな。わたしと先生以外は存在しないこの屋上庭園で伝われば、いいかな。
「先生!受け取って下さい…!」
「手紙?僕に??」
「っ、はい」
「モテる男はつらいなあ。読んでないラブレターも部屋にたくさんあるんだよね」
「そう…ですか」
「なんて嘘だよ、嘘だからそんな顔しないで」
「……はい」
「これ、ありがとう。返事は今でいいかな?」
「え?」
恥ずかしくて伏せていた顔をびっくりして勢いよくあげると、目を細めて笑う先生がいた。
はじめて、はじめて先生がわたしに笑ってくれた。わたしが今までみていた先生の笑った顔は笑った顔ではなかった。すごく、なんか、すごくうれしい。
「僕も君のことがすきだ」
どっと溢れてくる想いが目尻に伝って床に落ちた。
わたしは生徒で先生は先生で、今ここで気持ちを確かめ合うべきではないのに、先生がやさしく笑うからわたしの唇は言うことをきかない。
「先生。ちゃんと手紙読んでください、わたしは先生のこと、好きなんじゃなくて」
愛してるんです。
2012*07*28
マシンガンみたいに愛を降らせたらな
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